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俳句には、季節を表す言葉である「季語」を、必ず一つは入れて詠むというルールがあります。しかし、たとえ同じ季節や季語であっても、俳句を詠んだ俳人によってその表現は様々。

そこで今回は、日本を代表する有名な俳人たちが詠んだ冬の俳句をご紹介しつつ、簡単な俳人たちの経歴や、詠まれた際の背景を元に、そこに含まれる意味を紐解いてみました。
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冬の俳句(1)松尾芭蕉が詠んだ清々しい冬の朝の俳句


月白き 師走は子路が 寝覚め哉

日本を代表する俳人であり、世界的にも有名な松尾芭蕉(まつおばしょう)による作品。彼の詠んだ俳句は今も尚、日本文学界に影響を与え続けています。


早速、俳句に込められたその意味を紐解いてみたいと思います。

曇りなく冴え渡る師走の白き月は、
かの孔子の弟子であり、
清廉恪勤、実質剛健と謳われた子路のようではないか



江戸時代前期の俳人であった松尾芭蕉。その時代は、武士から庶民に至るまで、孔子の論語を学んでいたそうです。当時の俳人であった松尾芭蕉にとってみれば、俳句の中に何気なく孔子の弟子の名を入れてしまえるほど、とても身近なものだったのでしょう。

また、多くを語らずとも、孔子の弟子として名高い子路を引き合いに出すことで、冬の澄み切った情景を比喩的に表した松尾芭蕉。さり気なく散りばめられた技巧が光る俳句を詠んだ松尾芭蕉は、さすが天才と称されるだけはありますね。

冬の俳句(2)冴え亘る冬の夜空を詠んだ与謝蕪村の俳句


寒月や 門なき寺の 天高し

松尾芭蕉と共に並び称される有名な俳人・与謝蕪村(よさぶそん)の作品です。

江戸時代中期に活躍した俳人であり、画家としての才能もあった与謝蕪村は、俳画(俳句を引き立てながら句と共に添えられた絵)の創始者ともいわれています。そのため、与謝蕪村の詠む俳句の世界はどれも美しく、清々しい雰囲気を持っているというのが特徴ともいえるでしょうか。


そんな与謝蕪村が詠んだ有名な冬の俳句の意味を、紐解いてみたいと思います。

玲瓏と輝く月が冴える寒い夜、
門のない小寺の上には、
澄み切った空が高く広がっていることよ



視線の動きを感じさせる俳句は、まるでその幻想的な光景をテレビ中継して映しているかのよう。情景が目に浮かぶようなこの俳句は、写実的な言葉でありながら、凝らされた美しい技巧を感じさせてくれます。

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冬の俳句(3)小林一茶らしい柔らかな冬の俳句


うまさうな 雪がふうはり ふわりかな

3つ目は江戸時代を代表する俳人の一人、小林一茶(こばやしいっさ)の作品です。

一茶は松尾芭蕉、与謝蕪村と共に並び称される有名な俳人です。また、彼の残した俳句には、とてもユーモラスで愛嬌のある作品が多く、俳句を自由に楽しんでいる様が伝わってきます。


そんな小林一茶の残した冬の俳句の一つ、その意味を解説してみます。

空を見上げれば、うまそうな牡丹雪が
ふうわりふわりと舞い落ちて来たよ



舞い落ちる様を「ふうわりふわり」と詠んでしまうところが小林一茶。おかげで、甘い砂糖菓子のような雪を想像させてくれます。

目に映る何気ない光景さえ、どこか楽しいものに変えてしまえる非凡な才能こそ、小林一茶が愛される所以。彼の俳句を読んでいると、とても温かく微笑ましい雰囲気を感じます。

冬の俳句(4)冬の気配を感じる正岡子規の俳句

いくたびも 雪の深さを たずねけり

近代日本文学に多大な影響を与えた俳人・正岡子規(まさおかしき)による一句。子規は幼いころから体が弱く、亡くなるまでの七年間は結核を患い、三十四歳という若さで亡くなった方でもあります。

しかし、文学への熱意は人一倍で、また、与謝蕪村を取り分け尊敬していたのだとか。


それでは、そんな正岡子規の詠んだ俳句の意味を紐解いてみたいと思います。

幾度も幾度も、雪の深さは
どれほどになったのかと問うてしまったよ



飾り立てることなく、写実的な俳句を詠むことで知られる正岡子規。しかし、正岡子規は、ただ端的な句を読んだわけではなく、その写実的な言葉の中に、深い意味を含ませるという技巧を凝らしていました。

なぜ、見れば分かる雪の深さを何度も尋ねたのか。
この俳句は、そこに意味があるのです。

実は、この頃の正岡子規は病床にあり、起き上がって外を見ることも叶わなかったそうです。そんな心の内を、写実的な言葉の中に含ませていたのです。

この意味を知れば、端的に見えた俳句が、何とも深みを増してくると思いませんか。

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冬の俳句(5)詩人的なセンスが光る北原白秋の冬の俳句


瓦斯(ガス)燈に 吹雪かがやく 街を見たり

俳人であり詩人、そして童謡作家としても有名な北原白秋(きたはらはくしゅう)による作品です。

彼の作った歌は今も尚、多くの子供たちによって歌い継がれています。そのため、どちらかというと詩人や童謡作家としての方の知名度が高いかもしれません。更に言えば、北原白秋が活躍した時代は、同じく活躍した詩人・三木露風と合わせ、「白露時代」とも呼ばれるほど。


それでは、そんな北原白秋が詠んだ、有名な冬の俳句の意味を紐解いてみます。

冷えた空気の中、
煌々と光る瓦斯燈に照らされ、
吹雪が輝く街並みが見える



さすがは日本を代表する詩人・北原白秋です。
冬の美しく幻想的な情景を、まるで目の前に見せるかのような俳句ですね。

※参照:春を題材にした有名な5つの俳句とその意味を解説。

この記事のまとめ


をテーマにした有名な5つの俳句を、その意味と共にご紹介しました。しかし、どれも日本を代表する有名な俳人たちが詠んだ俳句だけあって、短く少ない言葉でありながら、情景や心情を見事に表している俳句ばかりですね。

一見すれば、詠まれているのは端的な情景かもしれません。しかし、それが俳人たちの個性的な言葉選びによって、様々な雰囲気で表されています。更に、そこに込められた意味を紐解いてみれば、俳人たちの含めた想いや情景が、ありありと蘇ってくるのです。

個性豊かな俳人たちが残した俳句を通し、冬という季節を感じてみてはいかがでしょうか。

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