夏といえば、その暑さや娯楽、食を思い浮かべてしまうのが現代人。
しかし、昔の人は和歌にさり気なく夏らしさを含めて楽しみ、歌を詠んでいたわけです。
私自身、避暑のごとく和歌を調べて、その暑さが詠まれているものの少なさに疑問を思った時期もありました。そこで、そんな夏を詠んだ有名な和歌を5つご紹介します。
目次
和歌1.夏の風物「花橘」を題材にした有名な夏の和歌。
「五月待つ 花橘の 香をかげば 昔の人の 袖の香ぞする」
古今和歌集に収録されているこちらの和歌は、残念ながら作者は不明です。
しかし、夏の風物である「花橘」の和歌としては、とても有名な歌でもあります。
現代語に訳してみましょう。
「五月を待って見ごろになる花橘の香りをかげば、
昔の恋しいあの人の袖の香りを思い出し、なんとも懐かしいものだ」
要は、昔の恋人の香りを思い出して懐かしくなっているという和歌です。
花の香りを嗅いで思い出に浸れるなんて、余裕な感じがしますよね。
和歌2.妻への愛を詠った柿本人麻呂の恋歌
「夏野行く 牡鹿の角の 束の間の 妹が心を忘れて思うへや」
万葉集に収録されている柿本人麻呂の夏の和歌です。
現代風に訳してみると、なんとも熱烈な恋歌になります。
「夏野の牡鹿の短い角というわけではないが、
それほどの束の間さえ、妻への愛おしい想いを忘れたことはない」
柿本人麻呂の和歌は、結構、奥様に関する和歌が多いのが特徴です。補足ですが、牡鹿の角は、夏に生え変わることから、牡鹿の角は夏の風物ということなのだそうです。
和歌3.片思いの恋心の苦しさを詠った大伴坂上郎女の和歌
「夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ」
万葉集の中でも、群を抜いて人気の高い夏の和歌です。
※参考:万葉集って何時代に成立したの?有名な和歌もまとめてみた
作者は、大伴坂上郎女という人物。万葉集には、長・短歌合わせて84首も収録されていることからも、その実力は折り紙付きでしょう。
現代語にしてみると、こういう感じの解釈になります。
「夏の野の深い茂みの中に隠れ咲く姫百合のような、
秘めた恋というのは苦しいものです」
片思いの苦しさをこんな可憐に清々しく表せるのは、さすが女性といえるかもしれませんね。
和歌4.大伴家持の初夏に咲く「朱華」を愛でる夏の和歌
「夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろひなむか」
三十六歌仙の一人、大伴家持が詠んだ夏の和歌の一つです。
現代語に直すと、こんな感じになります。
「夏になってやっと咲いた庭梅だけれども、
雨が降ったら色褪せ散ってしまうのだろうか」
「はねず」とは、「朱華」という字を書き、初夏に赤い花を咲かせる庭梅、または庭桜のことを指しているのだろうとのこと。
夏の暑さよりも、花を愛でる余裕を持てるところが、雅な風流人の証なのかもしれませんね。
和歌5.七夕の夜をロマンチックに詠った有名な和歌
「天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば」
万葉集に収録されているこちらの和歌。
作者は不明ですが、夏の風物、「七夕」に関する和歌としててとても有名な歌です。
現代語に直して意味を読み解くと、なんともロマンチックな七夕の和歌になりますよ。
「霧立ち夜が更けてくれば、天の川を渡る
彦星の船漕ぐ楫(かじ)の音が聞こえてくる」
七夕の夜に空を見上げて、こんな和歌を読むことが出来れば素敵ですよね。
※参照:恋を詠んだ和歌で有名な作品を5つまとめてみた。
この記事のまとめ
夏を詠んだ和歌で有名な作品を5つご紹介しました。
ご紹介した和歌だけでも、夏を表す言葉が数多くあることが分かります。
「暑い」だとか、「眩しい」という率直な言葉を遣わないところが凄いですよね。
けれど、実は中には、「暑さでフラフラするよ」なんて和歌もあったりするのです。
見つけた時は、なぜか「にやり」としてしまいましたが。
それでも、夏を表す風物の言葉を巧みに遣い、風流さを演出することを忘れない。
それが、日本が誇る雅な風流人の精神なのではないでしょうか。