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季節を感じさせる言葉、「季語」を用いて詠まれる俳句。おそらく俳句を詠む俳人たち以上に、季節を楽しんでいた人はいないでしょう。

そこで今回は、有名な俳人たちが残した俳句の中から、学校の教科書などでも登場する有名な「」の俳句を5つ、その意味と共にご紹介したいと思います。
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夏の俳句(1)松尾芭蕉が旅の途中に詠んだ感傷的な夏の俳句


夏草や 兵どもが 夢の跡

日本だけではなく海外でも有名な俳人、松尾芭蕉(まつおばしょう)による一句です。芭蕉は江戸時代中期に活躍した人物で、日本各地を旅しては多くの名句を残しました。また、「野ざらし紀行」「鹿島紀行」「笈の小文」「更科紀行」「奥の細道」など、多くの紀行文を残した事でも知られています。


そんな松尾芭蕉の詠んだ夏の句に込められた意味を、簡単に訳してみたいと思います。

昔、この地は勇猛果敢な将たちが
栄光を手にする夢を見て競い合った場所だけれども、
それも一時の夢。今はただ、夏草が深く生い茂るだけだ



ご紹介した句は、芭蕉が記した「奥の細道」を書くための旅の途中、平泉(岩手県の平泉町)に立ち寄った際に詠まれた句でもあります。この場所は、源頼朝に滅ぼされるまで、東北地方最大勢力だった奥州藤原氏が拠点としていた地でもあり、源義経の最期の地としても有名です。

閑寂な風景を見にしながら、まるで過去の熾烈を極めた戦場を見据えているかのような句は、松尾芭蕉の心に浮かぶ想いが伝わってくるような俳句です。

夏の俳句(2)自然の豊かさや美しさを詠んだ高浜虚子の俳句


船涼し 左右に迎ふる 対馬壱岐(つしまいき)

作者は、明治、昭和初期に活躍した俳人、高浜虚子(たかはまきょし)です。その名前から女性に間違えられますが、男性です。因みに、この「虚子」というのは、師でもあり、著名な俳人でもあった正岡子規からつけてもらったそうです。


そんな高浜虚子の詠んだ俳句の意味を、簡単に訳してみたいと思います。

船に乗ると、心地よい風が暑さを和らげてくれる。
そうやって涼んでいれば、美しい対馬と壱岐の島が
出迎えるかのように見えてきた



正岡子規の弟子だった高浜虚子は、最初の頃は主に小説を書いていました。しかし、その後、一度は断った正岡子規の後継となることを受け入れます。そして、「客観写生」「花鳥諷詠」を提唱し、後に有名となる俳人たちを数多く育てました。

今回ご紹介した俳句は、船に乗った夏の日の一場面を詠んだ俳句です。俳句という短い言葉からは、目に浮かぶような情景と、そこに含められた心地よいと感じる心や雄大な島々を見た感動が伝わってきます。

自然の花鳥風月を尊むという「花鳥諷詠」と、主観や感情を入れずに実景を写生的に表しながらも、その奥に主観を滲ませるという「客観写生」を考え出した、高浜虚子らしい俳句ではないでしょうか。

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夏の俳句(3)究め悟りに至った松尾芭蕉が残した夏の名句


閑さや 岩にしみ入る 蝉の声

作者はまたもや松尾芭蕉。この句も代表作「奥の細道」の中に収録されている有名な作品です。


それでは、この句に込められた意味を、簡単に訳してみたいと思います。

なんという静けさだろうか。
岩にしみ入るような蝉の声が、
ますますその閑さを際立たせるようではないか



この「閑さや~」は、松尾芭蕉が、山形県にある立石寺に詣でた際に詠んだ俳句だそうですが、蝉の鳴き声と静けさは、まったく相反するもののように感じますよね。

しかし、蝉や岩という自然は出てきていても人工的な音や情景は出てきていないことから、おそらく現実的な静かさではなく、自然界と一体になった心の落ち着きなどを表現しているのではないか…個人的にはこのように考察しています。

因みに、この俳句は、秀吟な句を残すことで有名な芭蕉の句の中でも、とりわけ秀吟だとされています。そのため、現代になっても多くの研究者たちが議論を交わすほどだとか。

夏の俳句(4)ユーモア溢れる小林一茶の詠んだ夏の俳句


涼風(すずかぜ)の 曲がりくねって 来たりけり

江戸時代を代表する俳人、小林一茶の作品です。
一茶は松尾芭蕉、与謝蕪村と並び評される有名な人物で、その作風の特色としては、「滑稽」「諷刺」「慈愛」があると述べられています。
彼がが残した俳句は、とてもユーモラスな句が多いです。


それでは、そんな小林一茶が詠んだ夏の俳句を、簡単に訳してみたいと思います。

表通りから裏に入った裏長屋。
その裏長屋の、またその奥にある我が家へ辿り着く涼風は、
曲がりに曲がりくねって届くのだろうよ



なんとも小林一茶らしい俳句です。
きっと涼しい風を感じたときに、ふと考えてしまったのでしょうね。

秀麗な情景などではなく、何気ない日常の瞬間を詠んだ俳句。けれどだからこそ、そこに込められた純朴とした想いが微笑ましく、思わず笑いが漏れてしまいます。

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夏の俳句(5)与謝蕪村の清々しい夏の夜明けを詠んだ俳句


みじか夜や 毛虫の上に 露の玉

作者は、江戸時代中期に活躍した俳人、与謝蕪村(よさぶそん)です。彼もまた、数多くの後世の俳人たちに影響を与えた人物でもあり、特に正岡子規は、与謝蕪村のことをとても尊敬していたようです。


そんな与謝蕪村の詠んだ夏の俳句の意味を、簡単に訳してみたいと思います。

夏の短い夜が明け始めた庭先では、
毛虫の毛の上で露がきらきらと輝いているよ



爽やかな作風で知られる与謝蕪村らしい俳句。
清々しい夜明けの空気が伝わってくるようです。また、嫌われることの多い毛虫を、とても美しい存在のように感じさせられるのは、蕪村だからこそかもしれません。

※参照:秋をテーマにした有名な5つの俳句とその意味を解説!

この記事のまとめ


夏を感じさせる有名な5つの俳句を、その意味と共に厳選してご紹介しました。

季節を感じさせる季語は、覚えきれないほど存在します。しかしそれは、その季節の「らしさ」がそれだけ多くある証拠です。そして、遥か昔から続く俳句の文化は、その「らしさ」を見つけ続けてきたということでもあるでしょう。

今回ご紹介した俳句のテーマとなる季節は「夏」と共通していますが、季語はすべて違います。俳人たちが各々の感性で選んだ季語、そして詠み上げた想い。

個性豊かな俳句を通し、その季節を感じてみてはいかがでしょうか。

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